主要事件判決14 「審判請求期間徒過事件」

主要判決全文紹介
《知的財産高等裁判所》
審決取消請求事件
(審判請求期間徒過事件)
-平成24年(行ケ)第10084号 平成24年6月14日判決言渡-

判示事項
(1)特許法121条2項は、「拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないときは・・・その理由がなくなった日から14日・・・以内でその期間の経過後6月以内にその請求をすることができる。」と規定しており、「責めに帰することができない理由」とは、天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすることができないことのほか、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由をいうものと解される。
原告は、平成23年4月28日に拒絶査定の謄本の送達を受け、本件審判の請求を同年7月29日にしたことが認められる(当事者間に争いがない。)が、以下のとおり、この点について、原告の「責めに帰することができない理由」によるものとは認められない。

(2)原告は、「拒絶査定の謄本は、平成23年4月28日に原告の代理人に送達されたが、原告が査定の謄本を受け取ったのは同月29日であり、原告は、錯誤により、同年7月29日までに不服審判を請求すべきものと考え、同日より1日早く不服審判を請求しようとしたが、電子申請ソフトのバグ修正に手間取り、同年7月29日零時2分57秒の請求となった。」旨主張する。
しかし、原告の主張は失当である。原告の上記主張に係る事情は、結局、原告の注意が不足したため、錯誤に陥り、手違いが発生したというものであるから、原告の「責めに帰することができない理由」とはいえない。

(3)原告は、「平成23年東北地方太平洋沖地震により二次的被害を受け、特別措置法3条3項に基づく審判請求期間の延長を受けられるはずであり、平成23年9月7日に住所変更、同年11月4日に上申書を提出し、同年12月7日に請求項に対する納付金を納入しているから、審判請求期間の延長の申し出に関する手続は補正されているから、特許法121条2項の適用が認められるべきある。」旨主張する。
しかし、原告の主張は失当である。原告は、地震による二次的被害として、上記第3の1(3) のような事情を主張するが、原告の主張を最大限考慮しても、それらの諸事情と、本件審判の請求が1日遅れたこととの間に因果関係は認められず、原告の「責めに帰することができない理由」により審判請求期間内に請求をすることができなかったとはいえない。

(4)原告は、「原告には、東北地方太平洋沖地震に起因して、拒絶査定に対する不服審判請求の対応以外にも、生活環境に負荷がかかっていた」旨の諸事情を縷々主張する。
しかし、原告の主張は失当である。原告の主張する諸事情と、本件審判の請求が1日遅れたこととの間に因果関係は認められず、原告の「責めに帰することができない理由」により審判請求期間内に請求をすることができなかったとはいえない。



事件の骨組
1.本件の経緯
平成20年 6月27日  特許出願
発明の名称「多糖類由来化合物の生成方法並びに生成装置」
特願2008-169216号
基礎出願:特願2007-175805号
平成23年 3月31日  拒絶査定
平成23年 4月28日  同謄本送達
平成23年 7月29日  審判請求、 不服2011-16336号
平成23年12月12日  審決
「本件審判の請求を却下する。」

2 本件審決の理由の要旨
拒絶査定に対する審判の請求は、特許法121条の規定により査定の謄本の送達があった日から3月以内である平成23年7月28日までにされなければならないところ、本件審判の請求は同月29日になされているので、上記法定期間経過後の不適法な請求であり、補正をすることができない。
したがって、本件審判の請求は、特許法135条の規定により却下すべきものである。

3.原告の主張
(1) 拒絶査定の謄本は、平成23年4月28日に送達されたが、同日に受け取ったのは代理人であり、原告が査定の謄本を受け取ったのは同月29日であった。原告は、心理的に余裕のない状態であり、特許法3条と審判請求期間である「3月以内」とを結び付けて理解することができず、錯誤により、同年7月29日までに不服審判を請求すべきものと考えた。
原告は、同年7月29日より1日早く不服審判を請求しようと考えたが、特許庁が配信する電子申請ソフトのバグ修正に手間取り、結局、同年7月29日零時2分57秒の請求となった。
(2) 原告は、平成23年東北地方太平洋沖地震により二次的被害を受けたものであり、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成8年法律第85号。以下「特別措置法」という。)3条3項に基づく審判請求期間の延長を受けられるはずであるが、同法の確認が遅れたため、審判請求期間には延長の申し出をすることができなかった。
しかし、原告は、平成23年9月7日に住所変更、同年11月4日に上申書(乙9の1・2)を提出し、同年12月7日に請求項に対する納付金を納入しており、審判請求期間の延長の申し出に関する手続は補正されたといえるから、特許法121条2項の適用が認められるべきである。

(3) 原告には、次の事情があった。すなわち、①原告の居住地及び勤務地であった北海道釧路市は、東北地方太平洋沖地震の特定地域から外れているが、同市も、大型の余震を含め地震が続いていた、②原告の勤務先(釧路工場)では、被災にあった他の3事業所(宮城県石巻工場と岩沼工場、福島県勿来工場)に支援物資の提供や応援者の派遣などの支援活動を行っていたため、原告の日常生活にも影響があった、③震災の影響により、原告の勤務先は、臨時に1、300人の早期退職者を募集していたので、原告もその早期退職制度を利用して、本件の審判請求と同時期ころに退職した、④平成23年4月末に拒絶査定を同時に2件(うち1件が本件のもの)受けており、それらの不服審判を請求する対応に追われたが、原告の居住地域は、離島ではないものの遠隔地であり、弁理士の過疎地域であって、地震の影響で遠隔地の弁理士との応対もままならなかった、⑤原告は、本件審判の請求期間中に、警察への公的有益情報の提供による時間が4時間以上あった等の事情である。
上記の諸事情により、原告には、東北地方太平洋沖地震に起因して、拒絶査定に対する不服審判請求の対応以外にも、生活環境に負荷がかかっていた。

                   (要約 たくみ特許事務所 佐伯憲生)

  原告  X
  被告  特許庁長官