主要事件判決1  「エバスチン微細粉粒組成物-侵害事件」

主要判決全文紹介
《大阪地方裁判所》
特許権侵害差止等請求事件
(エバスチン微細粉粒組成物-侵害事件)
-大阪地裁平成22年(ワ)第12227号 平成23年12月22日判決言渡-

判示事項
1 争点1及び2(被告ら各製品が本件発明1又は2の技術的範囲に属するか。)
① 本件各特許発明の技術的範囲の解釈について
上記(1)及び(2)で検討したところによれば、本件特許発明1の構成要件1-B「式(Ⅱ)の化合物は微細粉粒化されていることを特徴とする、」とは、式(Ⅱ)の化合物、すなわち「エバスチンを(ある状態よりも)大きさが極めて細かい状態の『粉(こな)』又は『粒(つぶ)』に変化させていることを特徴とする、」ものと解することができる。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1の構成要件1-Bの「微細粉粒化されていること」を、「構成要件2-Bないし2-Dで特定した大きさのエバスチンの粒子を有すること」に、具体的に限定したものと解することができる。
原告も、前記第3の1【原告の主張】(1)及び同2【原告の主張】(2)などにおいて、同旨の主張をしているところである。
なお、構成要件1-Bの「微細粉粒化されていること」については、どの程度微細なものであれば、これを充足するのか又何を基準として粒子の大きさを特定するのかなどの問題があり、構成要件1-Cの「改良された溶解特性を持つ」についても、どの程度の溶解特性を有するものが、これを充足するのかなどの問題もあるが、本件では、これらの点についての判断は留保し、以下、被告ら各製品においてエバスチンが具体的にどのような状態で存在するのかという点について検討することとする。

② Aptuit社作成の各分析試験報告書について
以上のとおり、本件分析方法、とりわけ、ラマンマッピングの画像について2値化処理をすることは、被告製品1及び5に含有されるエバスチンが、バリデーションに用いられたポリスチレン球形粒子と同様に、錠剤に含有される他の成分と明確に独立した状態、すなわち2次元平面上において、その存在する領域と存在しない領域を明確に分けられる結晶粒子の状態で存在するという前提となる事実が認められる場合にのみ、合理的なものであり、かつ、そのような前提となる事実が認められる場合に限って、ポリスチレン球形粒子を用いたバリデーションにより妥当性が証明され
ているということができる。
そして、上記アの各ラマンマッピング画像、上記電子顕微鏡(SEM)写真に加え、後記ウ及びエの各事実によれば、上記の前提となる事実を認めることはできず、かえって、被告製品1及び5に含有されるエバスチンが、バリデーションに用いられたポリスチレン球形粒子と異なり、錠剤に含有される他の添加物と渾然一体となっており、2次元平面上において、その存在する領域と存在しない領域を明確に分けられる結晶粒子の状態では存在しないことが認められる。
したがって、本件分析方法の妥当性がポリスチレン球形粒子を用いたバリデーションにより証明されているということもできない。

③ 被告ら各製品の製法
文献(乙47)によると、被告ら各製品の製法であるSolvent Deposition法は、薬物溶液とそれに溶解しない担体とを混和し、ついで溶媒を蒸発させ、これにより担体の表面を微細な薬物結晶で被覆された状態にするものであることが認められる。
そして、この記述は、被告製品1にかかる、上記アのラマンマッピング画像(図5)及び上記イの電子顕微鏡写真(写真No.2)と十分に整合的なものである。
そうすると、被告ら各製品に含有されるエバスチンの状態については、被告らが主張するように、賦形剤の粒子を被膜するような形で存在することを否定することはできないし、そうであるとすると粒子の状態で存在するとか、その数、大きさなどを観察することができるものであると認めることはできない。
以上によれば、上記(1)の本件各報告書の分析結果、すなわちドメインサイズの分析結果が、被告製品1及び5に含有されるエバスチン粒子の状態、数、大きさなどを示すものであるとは認めることができない。

④ 被告ら各製品の本件各特許発明の技術的範囲への属否
上記2のとおり、本件特許発明1の構成要件1-B「式(Ⅱ)の化合物は微細粉粒化されていることを特徴とする、」とは、式(Ⅱ)の化合物、すなわち「エバスチンを(ある状態よりも)大きさが極めて細かい状態の『粉(こな)』又は『粒(つぶ)』に変化させていることを特徴とする、」ものと解される。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1を前提としながら、「微細粉粒化されていること」を、「構成要件2-Bないし2-Dで特定した大きさのエバスチンの粒子を有すること」に、具体的に限定したものと解することができる。
しかし、上記3のとおり、本件各報告書の分析結果、すなわちドメインサイズの分析結果が、被告製品1及び5に含有されるエバスチン粒子の状態、数、大きさなどを示すものであるとは認めることができない。
他に、被告ら各製品に含有されるエバスチンの状態を示す証拠はなく、その結果、上記エバスチンが上記構成要件1-B及び同2-Bないし2-Dを充足することを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告ら各製品が本件各特許発明の各技術的範囲に属するということはできない。



事件の骨組
1.本件特許権
(ア) 特許番号  第3518601号
(イ) 発明の名称 エバスタイムまたはその類似体に基づく医薬組成物
(ウ) 出願日 平成 4年12月 1日
(エ) 登録日 平成16年 2月 6日

   本件特許の請求の範囲【請求項1】に係る発明を「本件特許発明1」、同【請求項4】に係る発明を「本件特許発明2」といい、・・・。
本件特許発明1は、以下のとおり分説することができる。
1-A 式(Ⅱ)
-式省略(エバスチンに関する化学式である)-
に対応する化合物を含有し
1-B 式(Ⅱ)の化合物は微細粉粒化されていることを特徴とする、
1-C 改良された溶解特性を持つ固体医薬組成物。
本件特許発明2は、以下のとおり分説することができる。
2-A 式(Ⅱ)の有効成分が以下の特徴
2-B 200μmより小さい最大サイズ
2-C 0.5から15μmの間の数平均粒子サイズ
2-D 25μmより小さい、および好ましくは20μmよりも小さい粒子サイズを有する好ましくは数基準で90%の粒子を有することを特徴とする
2-E 請求の範囲第1項記載の組成物。

   なお、エバスチンは、化学名「4-ジフェニルメトキシ-1-[3-(4-tert-ブチルベンゾイル)プロピル]ピペリジン」の一般名であり、本件明細書の【発明の名称】では「エバスタイム」と表記されている。エバスチンは、抗ヒスタミンH1活性を有し、呼吸又はアレルギー疾患を治療するために有効な公知の物質である。

2.被告の行為
-省略-

3.争点
(1) 被告ら各製品が本件特許発明1の技術的範囲に属するか〔構成要件1-B及び1-Cの属否〕(争点1)
(2) 被告ら各製品が本件特許発明2の技術的範囲に属するか(争点2)
(3) 本件特許権には、以下の無効理由があり、特許無効審判により無効とされるべきものであるか
本件特許発明1は、本件特許出願前に頒布された特開昭60-94962号公報(以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)と同一のものであるか(争点3-1)
本件特許発明1は、乙1発明及び本件特許出願前に頒布された特開昭59-95300号公報(以下「乙9公報」という。)に記載された発明(以下「乙9発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるか(争点3-2)
-(争点3-3)から(争点3-8)は、省略-

4.争点に対する当事者の主張
(1)争点1〔構成要件1-B及び1-Cの属否〕
【原告の主張】
構成要件1-Bの「微細粉粒化されていること」とは、微細粉粒の状態にあることをいう。
被告ら各製品は、製造工程のうち溶解工程で有機溶媒に溶解されたエバスチンが、乾燥工程で徐々に結晶化して析出することにより、微細粉粒化された状態となっている。
【被告らの主張】
本件明細書には、「微細粉粒化」の意義について、以下の(ア)ないし(ウ)の各記載があるのみである。
-(ア)から(ウ)省略-
そうすると、本件各特許発明は、公知物質である「エバスチン」の溶解性を高める手法として、微細粉粒機を用いて粗粒子をより細かく砕き、微細粉粒化して溶解度を高め、身体吸収を良くするということに尽きるものである。
被告ら各製品の製法
これに対し、被告ら各製品は、以下の図に記載したとおり、エバスチンの粗結晶化化合物(エバスチン粗結晶原薬)を有機溶媒に溶解させ、溶解状態にある薬物溶液のまま賦形剤等を加えて、製剤化したものである。
-工程図等、省略-
したがって、被告ら各製品は、エバスチンの粗結晶化化合物を物理的に粉砕して微細な粒子にしたもの、すなわち微細粉粒化されたものではない。
被告ら各製品に含有されるエバスチンの具体的な状態について
上記【原告の主張】(1)イは否認する。
そもそも、被告ら各製品に含有されるエバスチンは、上記イの製法を採用することにより、賦形剤等と絡まって渾然一体となっており、エバスチンの粒子径や粒子数を観念することはできないし、その実測寸法等を云々できるようなものではない。
(2)争点2
-省略-
(3)争点3
-省略-

                   (要約 たくみ特許事務所 佐伯憲生)

  原告  アルミラル・ソシエダッド・アノニマ(スペイン国)
  被告  沢井製薬株式会社
  被告  メディサ新薬株式会社
  被告  ニプロファーマ株式会社
  被告  全星薬品工業株式会社